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「ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ/イーブイ」レビュー – ポケモンに疲れた人向けのポケモン

Author
古都こと
ふよんとえんよぷよぐやま!!!

平成生まれでポケモンを知らない人はいないでしょう。ポケモンはそれほどに有名なゲームです。人生で初めて遊んだゲームがポケモン……という人も珍しくはないはずです。

そんな超大型タイトルであるポケモンの新作がついに発売されました。ピカチュウ版リメイクの「ピカチュウ/イーブイ」版です。ハードもSwitchにうつり、新天地での展開となります。

いままでのポケモンとかわったところ、かわらないところ、いろいろあると思いますが、どんな仕上がりになったのでしょうか。

一歩先へ「進化」したポケモンというゲーム

ポケモンというと、ゲームフリーク(勘違いしてる人が多いですが、任天堂のゲームではありません!)による超有名国産RPGということで、非常に素晴らしいゲームなのではないかと思っている人も多いのではないでしょうか。

正直に言いましょう。ポケモンというゲームは、はっきり言って今までは低品質なゲームでした。低いフレームレート、その上で頻繁に発生する処理落ち、レスポンスの悪いUI、時代錯誤なランダムエンカウント、数々のマスクデータ、それらの集合体が「ポケモン」でした。決して胸を張って「これがJRPGだ」と世界に発信できるものではありません。

一応システム面では、新作が出るにつれ、より直感的に、よりバランスよく調整されているのですが、UXがあまりにも最悪すぎて、そんなことを楽しめないぐらいストレスがたまるゲームでした。

もちろん対戦ゲームとしては、育成にかかる手間には賛否両論あるものの、非常に楽しいものでした。しかしそこにたどり着くには当然ストーリーを攻略せねばならず、最悪のUXに叩きのめされ続けるのに耐えなければなりませんでした。

ポケモンは、「赤緑」で初めて私たちの前に現れた時は素晴らしいゲームでした。ですがあまりにも前に進むことを怠りすぎました。1996年の赤緑から2017年のUSUMまで、このゲームは何も前に進んでいません。2017年にもなって1996年のゲーム体験を素直に楽しめと言われても無茶がある。そう言わざるを得ませんでした。

「ピカブイ」はそんな凝り固まった「ポケモン」を完全にぶち壊してくれるゲームでした。Switchのスペックを活かして、フレームレートの安定化やシンボルエンカウント方式への変更など、ハード側の進歩もあるのでしょうが、ずいぶん洗練された体験になりました。たかがそれだけか、と思うかもしれませんが、20年遅れのゲームだったポケモンにとっては大きな「進化」です。

UIに関しても多少、まあゲームフリーク自体のUIセンスが壊滅的なので全くの改善とまではいかないのですが、よくなりました。普通にプレイする分には全く問題ありません。

そしてなによりテンポがいいです。まず、野生ポケモンの戦闘は「ポケモンGO」方式になりました。これには賛否ありそうですし、私も思うところがあるのですが、まあテンポ良くなったのでいいかなと思ってます。

そしてピカチュウ版ベース、つまり初代ベースなので、ストーリー自体のテンポがだいぶいいです。あんまり余計なことやらされないし、テキストも少ないですし、イベントも少ないです。薄味も薄味なのですが、リメイクで余計なストーリー付け加えられるよりはるかにいいです。

つまり、簡単にまとめると、こうです。ポケモンのゲーム業界底辺みたいなUXが改善されたことで、やっとシステムを正当に評価する段階に入ることができた、と。

そもそもUXがひどすぎて評価に値しなかったポケモンというゲームが、無事「ゲーム」という土俵の上に上がってきました。

ワクワクするシンボルエンカウント

私はこう書きました。ランダムエンカウントは時代遅れで、シンボルエンカウントでやっと現代的になった、と。

しかしここに不安がなかったわけではありません。「ランダムエンカウントだからこそのワクワクする遭遇があったのではないか?」と。

しかしよく考えてみてくださいよ。例えばFalloutで遠目に巨大ミュータントをみたときにワクワクしませんでしたか?ブレスオブザワイルドではじめてライネルをみたときワクワクしませんでしたか?「ランダムエンカウントだからこそ遭遇時の感動が」なんてものは完全に幻想です。気のせいです。見えてても普通にワクワクします。

でも正直なところピカチュウ版のリメイクなので、ある程度分布を覚えてしまってるので、そこまで感動はなかったわけですが、それでも「ここにフシギダネ出るの!?」とか「うわああああ色違いのラッキー歩いてる!!!!」といったワクワクは冒険中ずっと続きました。

ランダムエンカウントの「いつ何が出てくるかわからない」ストレスからも解放されました。気になるポケモンだけに突撃して気のすむまでボールを投げればいいのです。もう色違い狙ってる途中の連鎖途切れともおさらばです。

このシンボルエンカウント方式は「自然の中にポケモンが存在する」空気感を作ることにも貢献しています。これがあることで、ポケモンがいる世界の中を冒険しているんだという気分を盛り上げてくれます。

今更シンボルエンカウントの導入かよ!と思うかもしれませんが、これは本当に大きいです。

メリハリがついた戦闘

野生ポケモンとの戦闘は「ポケモンGO」方式になりました。これはさすがに簡略化しすぎなのではないかという気持ちもなくはなく、やっぱりポケモンは弱らせてから状態異常にして眠らせて……とブツブツ言いたくなるところではあったのですが、実際プレイしてみるとこれがバカみたいに快適で、もう元の野生戦闘に戻れなくなりそうです。

一方でトレーナー戦はそのままです。トレーナーはそこそこの密度で配置されているのでバトルには困りません。野生ポケモンとの戦闘が削除されたことでうずうずしていた戦闘欲で相手をぶっ飛ばしましょう。

この野生ポケモン戦の簡略化とトレーナー戦の続投は、ゲームにいい感じのリズムを生み出しています。ポケモン捕獲とトレーナー戦闘が完全に別システムになったことにより、脳のスイッチの切り替えが働いて、退屈せず遊ぶことができます。ボールリソースは野生へ、戦闘リソースはトレーナーへ、それぞれ振り分けることでふたつが衝突しないようにできています。

ジム戦ももちろん健在です。タイプ相性で苦戦させてくると思いきや草ポケモンが手に入りやすくなって易化したタケシ、相変わらずスターミーという種族値の暴力を出してくるカスミ、などなど。手持ちのエースポケモンで打ち破りましょう。

ポケモンたちと旅をする楽しさ

ピカブイではピカチュウおよびイーブイとのふれあいというのも目玉要素のひとつとなってます。これはポケパルレを1ポケモンに絞ることで反応の幅を増やした、という感じのものです。

私はこのシステムに全く興味がなく、特に何も考えずピカチュウ版を選びましたが、Twitterとかに上がっている動画を見ているとイーブイがだいぶ可愛いのでイーブイ版にしておけばよかったかなと若干後悔しています。

そして一番大事なのが連れ歩きの復活です。連れ歩きはゲームボーイのピカチュウ版に始まり、HGSSで久々に復活し全ポケモンに対応し、それ以降はずっと廃止されていた要素でした。ポケモンやってる人ならわかると思いますが、これは大好評も大好評のシステムで、次回作で消えるとわかったときにお葬式みたいなムードになりました。

今回はなんと全ポケモン(151匹+メルタン系)3Dモデルで連れ歩きかつ一部のポケモンには乗って移動できます。しかもモーションがかなり凝っていて、サンドパンは転がってついてきてくれるし、ヤドンはびっくりするぐらい遅いし、ギャロップには乗って移動できるわけです。こういうのが全ポケモン分あります。最高じゃないですか?尊い。

連れ歩きとシンボルエンカウントをあわせて、いままで殺風景だったフィールドがめちゃくちゃ賑やかになりました。「ポケモンのいる世界をポケモンと旅する」楽しさは、今までのポケモンシリーズの中でトップクラスです。

一緒に旅するポケモンたちは可愛くてかっこよくて、誰もがポケモンだいすきクラブ会長のような語り口になってしまいます。

ストーリーの適度なアレンジ

ストーリーは適度にアレンジされています。また、ピカチュウ版準拠なのでムサシとコジロウが出てきたりするのですが、ちょっと出番増えてます。

初代の薄味さを損なわない程度に軽く味付けしてますが、やりすぎない程度に収まっています。フジ老人がロケット団と関わっていたことが明言されたのとか今回が初めてですかね?(FRLGとかにもあった?)

またレッドやグリーン、それにブルー(!)も出てきます。レッド/グリーンは、まあ、いつものことですが、ブルーは驚きです。ブルーは初代の攻略本か何かの表紙に乗っていた没キャラです。ポケスペのブルーのデザインもこれを参考に描かれています。

最近のポケモンから入った人には物足りないと思いますが、初代ファンとしてはかなりいい塩梅なのではないかと思っています。

快適になったシステム

ピカブイではついにポケモンセンターからPCが撤廃されました。いちいちポケセンに戻らなくてもメニュー画面からボックスを開くだけでポケモンの入れ替えができます。便利です。

あと秘伝技なくなりました。パーティに秘伝要員入れる必要ないです。これは厳密にはサンムーンからの仕様なのですが、知らない人もいると思うのでここで紹介しておきます。

そして細かいところなのですが、他のポケモンと遭遇しても連鎖が切れなくなりました。高個体値や色違いのポケモンが狙いやすくなっています。

犠牲になった対戦

ここまでちゃんと作られているゲームなのに、対戦はなぜか先祖返りしています。151匹+メルタン系。持ち物無し、特性無し、メガあり。

感覚としては初代に近いのでしょうか。でもはっきりいってどうしようもないほどつまらないです。中身がないです。虚無です。

初代の対戦が面白かったという人はやればいいと思いますが、正直あれが面白いとは全く思えず、私はマリオスタジアムで対戦見てるかポケモンスタジアムのミニゲームやってる時間の方が長かったです。

またシステムは現代基準なので、ケンタロスが特に強いわけでもどくどくかげぶんしんが通用するわけでもなく、ああいう雑さがないので無味無臭です。完全なる無です。

対戦ツールとしてのピカブイは期待しない方がいいです。あまりにも内容がなさすぎます。

このあたりはいずれ出るであろう本編に期待ですかね。

ここで個体値とかにもケチつけたかったのですが、対戦があまりにも虚無すぎて言及しても無意味なので省略。

総評:ポケモンに疲れた人向けのポケモン。対戦には期待するな

ピカブイはポケモンを新たなステージへ連れて行ってくれるゲームです。新ハードへの移行とシステムの大幅な変更によって、今まででは考えられない快適性を実現しました。

また、ポケモンの世界を冒険し、ポケモンを愛でるという方面について、非常に強いゲームです。野生のポケモンたちが闊歩する中をお気に入りのポケモンとともに走り抜け、ピカチュウ/イーブイをドレスアップしたり、リザードンの上に乗って空を駆けたり、ヤドンの「なにもしない」を見守ったり……。

ポケモンたちの生きる世界を、ポケモンと一緒に、ポケモンを集め、ポケモンを愛でて、ポケモンと戦って。そんなポケモンの根源的な楽しさをもう一度呼び起こしてくれる、素晴らしいゲームです。

かつてポケモンが好きだったけど、いろいろな理由で疲れちゃってやめちゃった、という人は多いと思います。ピカブイはそんな人でも受け入れる懐の広さを持っています。ただポケモンの世界を走り回るだけで楽しい、童心に戻れるゲームです。

一方で対戦方面に関しては貧弱です。今回の対戦には価値がありません。子供同士がカジュアルに旅パを戦わせるぐらいならいいのでしょうが、そんなのはどうでもいいし、ちゃんと作って欲しかったというのが正直なところです。

でも今回は対戦なんて気にしなくていいです。ポケモンがかわいいんです。ポケモンと一緒に旅ができるんです。買いましょう。カントー地方を旅しましょう。もう一度、ポケモンしましょう。