2017年10月27日、NIntendo Switchで、マリオシリーズの新作「スーパーマリオオデッセイ」が発売されました。久々の「箱庭マリオ」ということもあり、国内外で非常に高い注目を集め、好調なセールスを記録しています。
そんなマリオオデッセイですが、ゲームとしての出来はどうだったのでしょうか。過去のマリオと比べると?そういった点にも着目しながらレビューしていきたいと思います。
完全クリア
先日、ついにすべてのムーンを集め、強化版ラスボスを倒し、ムーンの数を999にし、マリオオデッセイを完全にクリアしました。写真を撮ったりレースのランキング上位を目指したりと、まだまだやることはあるのですが、とりあえずここで一区切りつけてレビューを書いてみたいと思います。
久々の「箱庭マリオ」
「マリオ」のゲームというとプラットフォーマーとしての側面が強い印象がありますが、本作は「箱庭マリオ」となっています。
箱庭マリオというのは、従来のマリオのように決められた道を進んで行くだけではなく、いくつかの中規模のマップの中から降り立つ地を選んで、その中で自由に冒険・探索し、特定の目標を達成して行くというスタイルのマリオです。
「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」のようなオープンワールドとは違い、箱庭は明確に「ステージ」として区切られていて、一度ステージセレクト画面まで戻らなければ他のステージには行けません。この特徴を指して「箱庭」と形容されています。
このスタイルはかつて「マリオ64」や「マリオサンシャイン」でも採用された方式で、マリオで初めてというわけではありません。しかし「マリオサンシャイン」を最後に、箱庭マリオが作られてから15年が経過しています。よって本作は、本当に久々の箱庭マリオとなります。
決して広いとはいえないが濃密な箱庭
「箱庭」という言葉から連想される通り、各ステージはあまり広いとはいえません。ですが非常に濃密な作りをしており、いたるところが発見に満ち溢れています。
少し探索すればムーンが見つかりますし、収集要素のローカルコインもあります。寄り道をするとアスレチックステージを発見できるかもしれません。とにかく「何もない空間」というものが極端に少なく、ゲームプレイ中はずっと興奮に満たされながら遊ぶことになります。
極めて多数のオブジェクトが計画的に配置され、プレイヤーの興味を引き続け、プレイヤーは常に濃い体験にさらされることになります。この驚くべきレベルデザインは広すぎない箱庭だからこそ実現できたのでしょう。
箱庭だけでなく、各所に存在するアスレチックステージも非常に高いクオリティで製作されています。マリオサンシャインやマリオギャラクシーのような、難易度の高い一本道のアスレチックステージは、自分のゲームの腕を発揮するのに最適な場所になっています。
豊富なアクションと多くのロケーション
マリオの特徴といえば高いジャンプですが、それは箱庭マリオでも変わりません。むしろ箱庭マリオの方がアクション豊富と言えるかもしれません。転がり、走り幅跳び、三段ジャンプ、側転、宙返り、ヒップドロップジャンプ、ボディアタック、壁キック、などなど、様々なアクションを用いてマップを縦横無尽に飛び回ることができます。加えて本作では「帽子アクション」が加わりました。投げた帽子で敵を倒したり、帽子を足場にしてより遠いところへとジャンプしたりと、行動の幅が広がりました。
箱庭のロケーションも様々です。高層ビル立ち並ぶ「都市の国」、鉄と植物で構成された「森の国」、あたり一面海に覆われた「海の国」など、多くのステージが用意されています。ステージが変われば景観もまるで変わってしまい、新しいステージに行くたびに新鮮な気持ちで探索することができます。
「マリオらしさ」に囚われない面白さ
マリオというとよくわからないものが生えてる草原から始まって、砂漠の国へ行って、クッパ城は溶岩の上にあって……とある程度の枠組みが決まっていました。ですがマリオオデッセイでは、「マリオらしさ」に囚われず、面白いことならなんでもしようとしています。
例えば、都市の国では高頭身の普通の人間が登場します。とある国では最新世代のグラフィックスで描かれたリアルなドラゴンだって出てきます。リアルな街並みの中を恐竜が走ったりもします。そして今回のクッパ城は……。つまり、なんでもありです。
これらの要素が「マリオらしさ」を損なっているかというと、恐るべきことに、全く損なっていないのです。むしろ「次はどんな国で、どんな驚きに出会えるのだろう」とワクワクしながらゲームを進めることができます。
心踊るパワームーン集め
マリオの機動力 × 様々なロケーション = とても楽しい!……とは言え本作は無計画に飛び回るだけのゲームではありません。「パワームーン」と呼ばれる燃料を集めて、より遠くの国へ行くのが主な目的となります。
パワームーンはステージのいたるところに配置されています。高い建物の上、土管の中、鉄の檻の中。どうやったらあの場所まで行けるだろう?どうやったらあの檻を破壊できるだろう?何か周りに利用できるものはないか?そんなことを考えながらステージ中を飛び回ることになります。時にはかっこいいアクションを決めながら、時には謎解きをしながら、パワームーンを取得して行く作業はとても楽しいものです。
64やサンシャインではステージに入るときにどのスター(シャイン)を取るかを大まかに選択しましたが、今回はそれがありません。自由に冒険して、自由にムーンを取っていいのです。
冒険を彩る新アクション「キャプチャー」
また、新アクションとして「キャプチャー」というものが追加されました。これは今までのマリオの「変身」に変わるもので、対象となるオブジェクトや敵に帽子を投げつけると「乗り移る」ことができます。
たとえばキラーをキャプチャーすれば空を遠くまで飛んで行けますし、ハンマーブロスをキャプチャーすればハンマーを投げて敵を蹴散らすことができます。バブルをキャプチャーすれば溶岩の中を泳いで進むこともできます。恐竜だってキャプチャーできます。
今まで敵キャラクターはマリオを阻む障害物でしかありませんでしたが、キャプチャーによって、マリオにとって大いに価値のあるものへと変化しました。今までのマリオであればハンマーブロスには近づきたくもないはずですが、今作ではハンマーが投げ放題になるパワーアップアイテムとしての側面も存在するのです。
箱庭マリオは難しい
3D空間を自由自在に飛び回ってパワームーンを集める。それが箱庭マリオの楽しさです!
ですがその楽しさに至れない人も数多くいます。箱庭マリオは難しいのです。まず、2Dマリオなどと違って、ひらけた空間にいきなり放り出されて、「何をすればいいのかよくわからない」という状況に陥ったり、カメラ操作や多彩なアクションを次々に繰り出して行く操作難易度の高さから、まともに操作すらできないという人も少なくありません。
特に今作はアクションゲームに慣れた人向けの調整がなされていて、たった3回ダメージを受けるだけでミスになったり、操作をちょっと失敗するだけで不意の落下死が発生する場面も多くあります。アクションゲームに慣れていない人にとっては、なかなか厳しいゲームとなっています。
誰にでも楽しめる箱庭マリオへ
箱庭マリオというのはなかなか取っつきづらく、特に今作は箱庭マリオの中でも難しい部類に入ります。ですが、それをそのまま放置する任天堂ではありません。様々な仕組みによってできるだけ多くの人が楽しめるような調整がなされています。
かつて「マリオ64」が世界を風靡したとき、多くの人に大絶賛される一方で、「広い場所に放り出されてどこに行けばいいのかわからない」と困惑する人もいました。それを解決するため、「マリオサンシャイン」では進行ルートをわかりやすく示すようなレベルデザインが採用されましたが、一部のゲーマーたちには「自分でやっているというより、やらされている感じがある」と不評でした。誰もが満足できるゲームを作るというのはなかなか難しいものです。
そこで今作では「両方」を採用しています。つまり、わかりやすく道筋が示されているパワームーンと、様々な場所に隠されているパワームーンの両方が存在するのです。道筋に沿って攻略していれば多くのパワームーンが手に入りますし、ゲーム慣れしている人なら自分で色々な場所を探索して、さらに多くのパワームーンを見つけることができます。
また「おたすけモード」というものも搭載されています。これはいつでも切り替え可能なモードで、体力が3から6に増加し、落下死を無効にし、マリオを静止していると自動で体力が回復したり、パワームーンまでの道筋を示す矢印が表示されるようになったりと、まさに「おたすけ」にふさわしい加護を得ることができます。おたすけモードによるペナルティはありません。
これらの施策によって、気軽に楽しむライトゲーマーから、己の力量を試したいハードコアゲーマーまで、幅広い人に受け入れられる箱庭マリオに仕上がっています。
旅の思い出、スナップショットモード
今作のテーマは「旅」ですが、それを反映した機能としてスナップショットモードというものがあります。スナップショットモードはゲーム中の時間を止めて好きな角度や位置から写真を撮影できるというモードです。NVIDIAのAnselに近い機能かもしれません。これは十字ボタンの下ボタンを押すことでいつでも起動でき、好きな時に写真を撮ることができます。
Nintendo Switchの性能を最大限に活かした美しい風景が多いので、ついついいろんな場所で撮影してしまって、ゲームがなかなか先に進まない、ということもよく起こります。撮影した写真は本体のアルバムに保存されるので、そのままTwitterやFacebookにシェアすることができます。
ただ、残念な点としては、ゲーム中の時間を切り取るだけの機能なので、「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」のように自撮り用のポーズをマリオができるわけではないところです。マリオにポーズを取らせたければ、様々なアクションを駆使して好みのポーズを見つける必要があります。
3Dアクション黎明期の集大成
箱庭マリオというからには、当然「マリオ64」や「マリオサンシャイン」をベースにしたデザインも多く見つけることができます。各ステージの作りはマリオ64に近いですし、ステージ中に点在するアスレチックステージはまさにマリオサンシャインで見かけたのと同じような作りをしています。
また、マリオ最新作ながら、良い意味でマリオらしからぬ表現やレベルデザインがところどころで顔を覗かせ、私を驚かせました。どちらかというとマリオよりソニックやレア社のゲームを連想させるような場面もありました。
プロデューサーを務める小泉さんのインタビューを読むと、若いスタッフだと初めて遊んだゲームが「マリオ64」の世代もいるとのことです。その世代ならば、きっと当時にソニックアドベンチャーやクラッシュバンディクーも遊んだのでしょう。バンジョーとカズーイといったレア社のゲームも遊んだはずです。
そういった経験からくる、マリオだけに囚われない「3Dアクションの楽しさ」をこのゲームに凝縮したのでしょう。マリオの集大成ながら「非マリオ」の要素もふんだんに使われている、3Dアクション黎明期の集大成とも言えるゲームに仕上がっています。
いくらでも食べられるゲーム
わんこそばってありますよね。ちょっとだけのそばを何杯も食べるので、いつまでも食べられるような気になるやつです。
マリオオデッセイはわんこそばに近いゲームで、パワームーンひとつひとつは短いプレイ時間で取得できるのですが、それがあまりにもテンポが良く、区切りをつけるのを忘れ、いつまでも遊んでしまいます。
とはいえ自制心さえあれば短い時間でも楽しめるように作られているので、ちょっとした空き時間に遊ぶのにも最適なゲームです。自制心があれば、ですが。
楽しいムーンと楽しくないムーン
本作のパワームーンの数は膨大です。なんと880個ほど存在します。これはマリオ64のスターが120個なので、その7.3倍となります。
膨大なパワームーンのおかげで探索が楽しくなっているのですが、その一方で質の差というものが目立つ結果にもなりました。取るのが楽しいムーンと、取るのが楽しくないムーンにはっきりと分かれてしまっているのです。
檻の中に囚われているムーンをどうやって取るか考えるのは楽しいですが、広いステージの中からコントローラが震える地面を探すのは楽しくありません。アスレチックコースの奥に存在するムーンを取るためにムキになって遊び続けるのは楽しいですが、バレーボールでスコア100を狙うのは楽しくありません。
数があまりにも多いので、「全て取るのを楽しくせよ!」とまでは言えないのですが、ゲーム自体がとても楽しいので、どうしても楽しくない方のムーンというのは目立ってしまいます。
戻らない時間
「マリオ64」や「マリオサンシャイン」では各ステージに入る際、どのフェーズでのステージを始めるかが選択できましたが、今作ではそれは廃止されています。つまり、今作ではステージを進めると、そのステージの前の段階に戻れないということです。
例えば「都市の国」では初来訪時は夜の状態で雨が降っていますが、一度ボスを倒してしまうと二度と「夜の都市の国」には戻れません。
また、ステージの状態を戻せないので、ボスと再戦することもできません。ゲームクリア後に各ボスの強化版とは戦えるのですが、通常盤のボスとは二度と戦えません。
中途半端なモーションコントロール
今作はジョイコン分割持ちが推奨されているゲームです。なぜなら一部のアクションにモーションコントロールが存在するからです。もちろん他のコントローラでもモーションコントロールは可能ですが、少しプレイしづらくなります。
プロコントローラなどを使っていると、コントローラを振るのがわずらわしく、帽子の上投げ・下投げ・回転投げは自然と使わなくなります。なくてもすべてのステージをクリアすることはできるのですが。
そもそもボタンが大量に余っているのに、なぜモーションコントロールに帽子投げ分け操作を割り当てたのでしょうか。「ARMS」のように完全にモーションコントロール主体のゲームならともかく、ボタン主体のゲームでこれをやられると、操作性がなかなか厳しいと言わざるを得ません。
帽子の投げ分けは重要アクションではありませんが、投げ分けができるとアクションに幅広い選択肢が生まれるので、このような仕様になっている点は少し残念です。
まとめ – 不満点は多くあるが、3Dマリオの最高傑作
マリオオデッセイは完璧なゲームではありません。数多くの不満点や欠点が存在します。しかしそれらを考慮に入れても3Dマリオの最新作にして最高傑作と言い切ることができるでしょう。そもそも、完璧なゲームなんてこの世のどこにも存在しないのですから。
箱庭マリオというジャンルに挑戦するのは、すなわち、かの名作マリオ64との直接対決に挑むという意味でもあります。何をどう作っても必ずマリオ64と比較されます。しかし任天堂の東京開発チームはそれを恐れず、果敢に箱庭マリオに挑みました。その結果マリオオデッセイは最高のマリオゲームとして世に放たれました。
マリオオデッセイは「マリオギャラクシー」や「マリオ3Dランド」など名作を輩出してきた任天堂の東京チームが作るのだから、面白いに決まっています。ですが予想を超えた面白さでした。マリオの世界旅行は、喜びと驚きに満ちていて、私を大いに楽しませてくれました。
とはいえ、これで終わりということはないでしょう。まだまだやり残したことがたくさんあるはずです。次が「マリオオデッセイ2」になるのか、全く違うタイトルになるのか、まだわかりませんが、これからのマリオシリーズの展開に期待したいです。