Subterranean Flower

半年間VRゲームを体験した感想とオススメのVRゲーム

Author
古都こと
ふよんとえんよぷよぐやま!!!

2016年は「VR元年」が謳われることもあって、VRゲームが盛況です。数多くのVRハードウェアやVRタイトルが発表・発売され、実際に遊ぶことのできるゲームもたくさん発売されました。

私も4月にHTC Viveを購入し、VRゲームを楽しんでいます。多くのタイトルが私を大いに感動させ、少なくないタイトルが私を深く失望させました。VRが切り開いた領域は、混沌としていて、それでいて輝きを放っています。VRというものが何を変え、何を変えなかったか、私がこの半年で抱いた感想を、この記事に記していきたいと思います。

また、玉石混交の中から質の高いVRタイトルを見つけるのは、なかなか至難の技です。私も数多くの「ハズレ」タイトルを引き当て、虚空に消えていったお金を嘆くことがありました。そこで、その中で他人にオススメできる、面白かったVRタイトルについても紹介していきたいと思います。

半年間VRを体験して

眼前に広がる大きなヘッドマウントディスプレイ(HMD)、ほんのわずかな動作にも追従する高度なヘッドトラッキング技術、同じく高い追従性を誇るモーションコントローラ。この全てがあわさったものを現在ではVRと呼称しています。

「VRはゲームを変える技術」、そんな謳い文句を何度も聞きます。しかし一体何を変えるのでしょうか。本当にこれだけの技術でゲームが変わるのでしょうか。HTC Viveを使って半年間、VRゲームを体験した感想を書いていきたいと思います。

はじめてのVR

今年の前半、我が家にHTC Viveが届きました。馬鹿でかい箱を開けて、だいぶ面倒なセットアップを終えれば、あとはVRの世界へ突入です。

ViveのもたらすVR体験は素晴らしいものでした。あまりにも正確なヘッドトラッキングは、まるで全身をスキャンされているような錯覚を覚えました。しゃがんでも寝転がっても、その位置や角度を完璧に把握されていたのです。

そしてコントローラは、Wiiモーションプラスに慣れきった私でさえも大きく驚きました。例えばコントローラを自分の方に向ければ、ゲームの中の銃口がこっちを向く、といった風に完璧にトラッキングしてくれるのです。

そしてそれらがすべてHMD上の画面表示に反映されます。月並みな表現ですが、「臨場感がすごい」と言うほかありませんでした。

この機械は予想以上になかなか楽しめるのではないか。まずはそう感じました。あとは面白いゲームさえ遊べれば言うことはありません。Steamでさっそくゲームを漁り始めました。

これが私のファーストインプレッションでした。

感動と慣れ。体験会ではわかりにくい、VRのある日常

「自分が後ろを向くと、ちゃんとゲームでも後ろを向くんだよ!」「目の前に景色が広がって、まるでゲームの中にいるような臨場感!」「実際に手を動かすとゲーム中でも手が動いて、反応が返ってくる!」

体験会でVRゲームを初めてプレイしたとき、まず感動の洪水がプレイヤーを襲います。なにしろ、初めてのことばかりなのですから、とても新鮮な体験ができます。全く隙のないトラッキング技術に、没入感を高めるHMD、ことあるごとにフィードバックを返してくるゲーム。感動しないわけがないのです。至福の時間。そしてついに体験会の時間切れがきます。「もっと遊びたかった」、そんなもやもやした気持ちを抱いたまま、余韻を残して会場をさります。

……と、ここまでは短い時間での体験のお話です。家にVR機器があると、時間切れを気にせず、何時間も、何日も、好きなだけVRゲームをプレイできます。あなたの好きなだけです。係の人にプレイを止められることはありません。そして、そのままとても長い時間、何度も体験しているとどうなるでしょうか。ある日、世にも恐ろしいことが起こります。「慣れ」です。

初めのゲームを遊びます。あなたは自分が首を動かすとゲーム中での視点も動くことに感動します。次のゲームを遊びます。あなたは自分の首でゲーム中の視点を動かせることは当たり前なので、他の楽しみを見つけます。さらに次のゲームを遊びます。そこであなたは思います。「これ、スティックで視点操作できたら、もっと楽なのでは?」と。

「慣れ」は全ての感覚を塗り替えます。「臨場感のあるHMD」は「重くて邪魔なディスプレイ」に、「没入感のあるヘッドトラッキング」は「スティック操作を面倒にしただけ」に、「ゲームに介入できるモーションコントロール」は「大げさに手を動かさないとゲームを遊ばせてくれない」に、それぞれ変貌してしまいます。これではせっかくのVR技術が台無しです。でも、これが現実なのです。面倒なものと面倒なものと面倒なものをくっつけたもの、それがVRの正体です。

そもそも別に感動しなくてもいい

初めての体験でぶわっと燃え上がり、長時間の体験で燃え尽きてしまうVR。そんなものに価値があるのでしょうか?

しかし、そもそもハードウェアに感動が必要なのでしょうか?あなたはディスプレイを見るときに「これは独自性のないパネルだ」と嫌な顔をするでしょうか?ゲームのコントローラを握ったときに「このコントローラには感動がない」と怒るでしょうか?スマートフォンを買ったときに「このタッチパネルには独創性がない」と落胆するでしょうか?しないはずです。だって、どれも普通に使えるのですから。どれも初めは感動したはずですが、いまや当たり前のものとなっています。だからハードウェアに感動など、しなくてもいいのです。

初めは大きく感動し、慣れるにつれて感動は薄れ、最後には飽きてしまいます。飽きてしまったあなたには、もはや良いところは全く見えず、悪いところばかり目につくようになります。でも、それでいいのです。あなたにとって技術が当たり前になったそのとき、初めて真のスタートをきれるのです。VRでも同じです。慣れて、飽きて、それからです。それからすべて始まります。飽きるから価値がないのではなく、技術は飽きてから初めて価値が出てくるのです。

VRに「飽きた」人も楽しませるゲームはある

「飽きる」は「馴染む」と言い換えてもいいかもしれません。新鮮味があり感動をもたらしたハードウェアは、そのうち全く空気のように機能するようになります。するとどんなことが起こるのか。VRの目新しさだけに依存した、悪く言えば甘えたゲームが、全く楽しめなくなります。

そして残念ながら、今現在発売されているほとんどのゲームは甘えたゲームです。VRの目新しさが薄れるにつれ、そのゲームの楽しさも一緒に減衰していく、そんなゲームばかりです。ゲーム中の手が自分の手に合わせて動くだけで楽しいのは最初だけで、そのうちただ面倒なだけの要素になります。

では、VRに飽きるとVRゲームの価値はなくなるのでしょうか?

確かに多くのゲームは作りが雑です。しかし一部のゲームは違います。きっちりと基本的な楽しさを提供しているゲームは、VRに「飽きた」後でもしっかり楽しむことができ、なおかつVR特有の要素についても付加価値として楽しむことができます。

つまり、VRは単に目新しさだけの存在ではなく、ゲーム体験に確実に寄与する、れっきとした技術のひとつであると言うことができます。

VRでゲーム体験の革命は難しいが、ちょっとした拡張はできる

VRが目新しいだけでなく、ゲームの体験を高める技術のひとつであることは間違いありません。それでは、VRはゲームに革命を起こせるのでしょうか?

落ち着いてVRゲームを見渡すと、その中にゲームの常識を変える力があるものなど、まず存在しないことがわかります。コストがかけられないのか、ノウハウが足りないのか、正直なところ低い品質のものが目立ちます。そして出来のいい、とても面白いゲームでさえも、せいぜい既存のゲームの操作を置き換えただけのものが大半です。「Wiiスポーツ」のように操作ひとつで世界を席巻してしまうものもあるので、操作の置き換えを馬鹿にするのも考えものですが、今の所そこまでのパワーは感じません。

VR自体には可能性があるのかもしれません。ですが、ハードウェアはソフトウェア次第です。可能性を発揮させるソフトがないとどうにもならないのが厳しい現実です。将来的には出てくるのかもしれませんが、いまのところは皆無です。「ゲームの未来」などというのは、所詮広告屋の宣伝文句でしかなかったと、しばらくすると気付かされます。

ですが落ち込む必要はありません。しばらく遊んでいると、革命は起こせないでしょうが、確実にゲームの遊び方を拡張してくれるということにも気がつきます。HMDも、ヘッドトラッキングも、モーションコントロールも、これまでゲームにはあまり積極的に持ち込まれなかった概念です。どれも周辺機器としては大変魅力的です。既存のゲームをちょっと拡張しただけになってしまいますが、十分楽しめるはずです。

それに、世の中に存在するのはVR専用ゲームだけではありません。VR対応ゲームもあります。VR対応ゲームは専用ゲームとは違い、VR用に完全に最適化されたものばかりではなく、例えば単にHMD表示に対応しているだけのものも含まれます。「それではVRの本当の価値を活かせないのでは?」という疑問を持つ方もいると思います。私もその点については疑問でしたが、実際に遊んでみると、HMDに対応しているだけで没入感は高まりますし、既存のゲームパッドの方が操作に適しているゲームもあります。革新を求める人にとっては物足りないものとなるかもしれませんが、既存のゲームにさらなる価値を与えると言うのは、それだけで素晴らしいことです。

解像度の足りないHMD、邪魔なケーブル

今年になって華々しいスタートをきったVRですが、まだハードウェアにはいくつかの問題を抱えています。

まず、HMDの解像度が足りません。例えばHTC Viveは片目あたり1080×1200という解像度ですが、これでは網目が見えてしまい、没入感を大きく削ぎます。VRへの最適化不足のタイトルでは、解像度不足のため、文字が読めないことも多いです。加えて一部の高解像度が必要なタイトル、例えばレースゲームやFPSにいたっては、実際のプレイにも支障が出てきます。これらの問題を解決するには、より高解像度のディスプレイが必要になります。

また、現行のHMDにはケーブルがついています。映像を転送するためと、電源のためです。VRゲームをプレイするとき、これが邪魔になります。VR専用タイトルになると360度全てを使うものも多く、足を引っ掛けることも多いです。特にルームスケール(部屋全体をプレイエリアとして使う)のゲームとなると、ケーブルの問題は致命的です。映像の転送はともかく、電源についてはなかなか解決しないでしょう。バッテリーを搭載すると重くなってしまい、快適にプレイできないからです。

ハードウェアは月日が経つにつれて進歩していきます。ただ、現在のハードウェアでは完璧なVR体験は不可能であると断言するしかないので、購入時期の見極めが肝心になります。

高品質・大型ゲームタイトルの不足

ハードウェアだけでゲームは成り立ちません。すべてはソフトウェアによって支えられています。

ですが、現在のところクオリティの高いゲームが十分出ているとは言いがたい状況です。VRHMDが普及するにつれて力を入れる会社も出てくるのでしょうが、現状は「粗製乱造」、オブラートに包んで言うと「活気のあるインディー系が頑張っている」ということになります。インディー系といっても大手ゲーム会社に負けない質のゲームを作るところもありますが、VRタイトルではいまだになかなか出てきません。

大型のゲームタイトルが足りないことも問題です。大手会社の腰が重いことが原因ですが、大作タイトルは全くといっていいほどVRに対応していません。そして、そうなってくると大型のVR専用タイトルが作られることもありません。それなりに規模の大きいものでは、ARKやElite DangerousなどはVRに対応していますし、来年にはFallout4もVR対応する予定なので、これからの展開に期待したいところです。

結論:VRは世間が騒ぐほどのものではないが、楽しい。だがまだ早い

悲しいことに、VRは世間が騒いでいるほど素晴らしいものではありません。ハードウェアは未熟ですし、ソフトは全く揃っていません。様々な制約により、VRの全力を享受できないというのが実際のところです。本来のポテンシャルの3割も発揮できていないのではないでしょうか。

ですが、楽しいのは間違いありません。今までスポットライトを当てられなかった技術を使ったゲームを遊べるというのは、とても楽しいことです。VR専用タイトルはもちろん、VR対応タイトルにも様々な可能性があります。VRシステムを単にヘッドトラッキングつきHMDとして使用していたとしても、それだけである程度の没入感を得られます。

しかしながらソフトとハードの両輪の未熟さを考えると、今買うべきものではないと言わざるを得ません。今のままでは、「VRHMDよりGTX1080を買ったほうが遊べるゲームの幅が広がる」と言っても過言ではありません。将来的にはより高度なVRHMDが発売されるでしょうし、ソフトも充実してくるはずです。それから買っても遅くはないと思います。まだまだ未熟な分野ですし、2年後にまだ盛り上がっていたら買う、ぐらいでちょうどいいのではないでしょうか。

VRの未来がどうなるかはまだわかりませんが、現状では厳しい評価を下さなければいけないというのが正直なところです。VR元年は低調なスタートでしたが、来年には様々なゲームが充実してくることを願います。

オススメのVRゲーム

私が遊んだゲームの中から、いくつかオススメを紹介してみます。

Audioshield

Audioshieldは、いわゆる音ゲーです。両手に持った盾で、画面奥から飛んでくるボールをリズムに合わせて受け止めます。譜面は自動生成されるので、自分の好きな音楽ファイルを使用して遊ぶことができます。

このゲームの驚くべきところは、たったこれだけのシンプルな内容で、VRの価値を最大まで高めているところです。譜面は画面の向こうから飛んでくるのでHMDが活きますし、譜面を自分の手で受け止めるというシステムでコントローラのトラッキングにも大きな価値を与えています。単純かつ楽しい、そしてVRで遊ぶ意味があるという、素晴らしいゲームです。

惜しむべくは譜面が自動生成なので質が良くないというところです。リズムに乗るどころか画面を見てボールを受け止め、音楽は単なるBGMとしてのみ機能しているという状況になりがちです。

Space Pirate Trainer

Space Pirate Trainerはシンプルなwave型のガンシューティングです。こちらに攻撃してくるロボットを銃で撃ち落します。

VRゲームには数多くのガンシューティングがあるのですが、これを選んだ理由は一番シンプルだからです。シンプルなので飽きも早いですが、それゆえに混乱することなく素直に遊ぶことができます。初めて遊ぶVRゲームとして適しているでしょう。

SPTに飽きてより高度なガンシューティングが遊びたくなったら、Serious Sam VRRaw Dataにも手を出してみるといいでしょう。

Elite: Dangerous

Elite: DangerousはVR専用ゲームではありません。VRに対応しただけの、単なる普通のゲームです。ですが、ここで紹介させてください。このゲームはあまりにもVRに適していました。

Elite: Dangerousは宇宙を舞台にしたMMOです。宇宙船で銀河中を旅し、様々なクエストを受けたり海賊と戦ったりできます。

ポイントは、普段の視点は宇宙船内だということです。これがVRHMDに非常にマッチしています。まるで本当に自分が宇宙船内にいるかのように感じられ、非常に高い没入感を得られます。本当にただそれだけなのですが、このゲームとVRHMDの相性の良さは、格別のものです。